まだ名もないそのスキル#16「大猿の魔獣」

スノウがスキルの”テレポート”を唱え終えると、そこはイーサンの家の中だった。

安堵感と先ほどまでの出来事による疲労が同時にやってきた。
「なんか疲れた……」
そのままベッドに倒れ込んだ。

スノウが何か話かけてきたが休むことを優先した。
その様子にスノウは
「きったないわね、あんた人間でしょ!風呂ぐらい入りなさいよ」
(おまえは俺のおかんかっ!)

そう言葉に出してツッコむ元気もなかったので
「ほっといてくれ」

イーサンはそう返し、目を閉じた。
目を閉じると、スノウを通してだがスキルを初めて使った高揚感とウンディーネの顔が思い出された。
また、明日はキャピタシティの商会に行くことも、ふいに思い出した。

次の日、イーサンはいつもより早く起きてキャピタシティの商会へと向かった。

商会に入ると、責任者のミーゼルたちがいた。
他の従業員に軽く挨拶しながらミーゼルの元へ向かい挨拶をする。
「おはようございます!」

ミーゼルは作業中だったがイーサンの方へ顔を向けた。
「おうっ、調子は戻ったみたいだな!」

その言葉を聞いて、イーサンは二度目の【キカ】で傷ついた自尊心が少し癒えた気がした。

商会では空席になっているニグルドの席の隣に座った。ニグルドは昔から仲の良かった後輩だ。
ニグルドと軽く談笑していると、ミーゼルが威圧的な大声で叫んだのが聞こえた。

「ニグルドォー!」
「はいっ!」

すかさず、ニグルドが返事をしてミーゲルの方まで急ぐように向かっていった。
ニグルドの帰りを待つ間、イーサンの身には耳鳴りが起きていた。

(へぇ~、もうすぐね)
スノウの独り言が聞こえた。
(もうすぐって何がだよ?)
スノウに聞いてみるが、その時が来ればわかるとしか答えなかった。

そして、ニグルドが席に戻ってくる前にイーサンは取引先へ向かう時間となり、商会をあとにした。

夕方になり、キャピタシティの商会に入ろうと扉を開けようとしたときだった。
(気を付けなさい)
スノウの声が聞こえた。すると少し開けた扉が急に開き、体が吸い込まれ、バタンと扉は閉まった。

初めての体験に驚いたが、もっとビックリしたのは商会の中の様子である。
窓は割れ、机や椅子は散乱し、所々スプレーで落書きされた跡がある。

まるで、廃墟のようではあったが転がっているものや部屋の作りから、そこはどう見ても商会の中だった。
「……一体、何が起きてるんだ?」

誰に聞いたわけでもなかったが、スノウがすっと体から抜け出して返事をした。
「あれよ。思ったより早かったわね」

指をさす方へ目をやると、ニグルドが大猿の魔獣に胸倉を掴まれて苦しそうにしていた。

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