大猿の魔獣が小指の爪ほどの大きさしかない白い塊になると、ガラスの割れた窓から風が吹き込んできた。
(さっさとそこに落ちてるラムネ拾うわよっ!)
スノウの声が聞こえると同時に、スノウ主体で体が動いた。
(って、まんまラムネって呼ぶんだ……)
イーサンはスノウの言葉に気が抜けた。
白い塊(ラムネ)を拾うとそのまま口の中へと放り込む。
咄嗟のことにイーサンは咳き込むが既に胃の中へと到達していた。
「おまえっ……ゲホッゲホッ。落ちてるもんなんか食うなよ」
(大丈夫、大丈夫〜。3秒ルールだから)
ますます風は強くなり、砂埃に目をつぶった。
風が止む気配はまだない。
すると耳元で女性のアナウンスが聞こえた。
「成分の解析が完了しました」
あとでスノウに女性の声のことを聞いたら、スキル”自動アナウンス”というものらしい。今のところはスキルレベルが低く、アナウンスが流れるのはランダムらしい。
どうやら胃の中に入ったアレが溶け終わったのだろう。
「成分内訳はスキル”洗脳”、瘴気15.0mg。以上です。なお、スキル”洗脳”は”#%&Sのため、個体名『スノウ』へ譲渡されます」
スノウがアナウンスに反応する。
(いらね~。”洗脳”を素材にして、”自動アナウンス”を強化。)
「”自動アナウンス”のレベルが変化します。Lv1→Lv2。レベルアップ完了、次回より戦闘時に補助音声が流れることがあります」
アナウンスが終わると同時に風は止み、目を開けると元通りになった商会の中だった。
やはり、ミーゼルの姿はない。ふと、ニグルドのことを思い出す。
ニグルドのいた方へ行くと、重傷を負ったニグルドが倒れていた。
「おいっ!ニグルド。すぐ救急士を呼ぶから待ってろ」
意識を取り戻したニグルドが振り絞った声で返事をする。
「……ィーサン。イーサンが……あいつを…殺ってくれたんですね。」
「そうだ、俺が殺った。」
「……ぁりがとうございます」
ニグルドは感謝の言葉をいうと、また気を失った。
しばらくすると呼んでいた救急士が二人、商会に入ってきた。一人がニグルドの状態を確認すると”ローヒール”と唱え治療する。もう一人が”転送”と唱えるとニグルドと治療中の救急士の姿は消えた。
残った救急士はイーサンを見ると”氷塊”と唱え、氷の塊をハンカチでくるんで持ってきた。
「あ、自分。怪我してないんで大丈夫です。」
「何言っているんですか!これで顔を冷やしてください。」
救急士はイーサンに氷の塊を渡すと、商会から出ていった。
ガラスに映った自分を見ると、俺(スノウ)が殴ったところだけが内出血して赤紫色に少し腫れていた。
「ッ!痛ってぇぇぇ。」
あまりの痛さにうずくまってしまった。痛みに耐えていると、商会にまた人が入ってきた。
「あー、すみません。誰かまだ残ってますかー?」
声の方を見ると痩せた50代の男性がいる。
「……はーい。どちら様ですか?」
イーサンが来客向けのあいさつをすると、その男性は「冒険者ギルドの者です」と名刺を差し出した。
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