まだ名もないそのスキル#28:9-1「まだ名もないそのスキル」

「じゃあ早速行きましょ――」
 スノウがそう言った瞬間だった。
 イーサンの周りから、けたたましい音が鳴り響く。

 ヴィッ―ンッ!ヴィッ―ンッ!ヴィッ―ンッ!

 ブラックオークのトンタローは突然鳴り響いた音に
「これは何の音ですッ!?いったい、何事だ?」
 そう言いながら辺りを警戒しながらキョロキョロ見ている。

 すると、イーサンがおもむろに
「アラーム解除」
 そう言うと、けたたましい音は消えた。

 トンタローだけがまだ音の正体を探しているようだったが、イーサンとスノウは顔を伏せていた。
「ここは危険です!早く我が村に向かいましょう」
 トンタローが急かすが、イーサンとスノウはまだ顔を伏せたままだった。
「スノウ様?」

 トンタローがスノウを呼ぶと、スノウはふと何かを思い出したような素振りをした。
「あっ!そうだったわ!この後、別の用事があったんだったわ!そうよね、イーサン!」
 そう言って話を変えた。それに呼応するようにイーサンも話を合わせる。
「ッあ~そうだったな!スノウが外せない大切な用事って言ってたもんな!」
「じゃっ!私たちは一度帰るから!トンタローも気を付けて帰りなさい」

 そう言い残して、スノウとイーサンは”テレポート”で消えた。

 テレポートでイーサンの家に帰りつくと、時計の針は二十三時になりかけていた。
 静まり返った部屋でスノウが開口一番に言った。
「あんた、あんなところでアラーム鳴らすってどんな神経してんのッ!こっちまで赤っ恥かいちゃったじゃない」
 その言葉にイーサンも負けじと応戦する。
「しょーがねぇだろッ!誰かさんが何の準備もなしにあんなところに連れていくんだから!」
 その後もいがみ合ったが、二人とも埒(らち)が明かないと思ったのか言い合うのを止めた。

 言い合いが終わるとイーサンはキューブを触り始める。

 けたたましい音の正体はキューブのアラーム機能だった。
 というのも、ダンジョン内と外では時間の進み方が違うのだ。最近では兼業冒険者も増えたため、私生活に支障が出ないように追加されたものだった。

 キューブを『ポチポチ』しているイーサンにスノウが近づいて聞く。
「で、撮れてるの?」
「……あぁ」
「あぁって、見せなさいよ!」

 キューブが撮ったものは、受付けの女性が言っていたように自動で編集され、約五分の映像になってた。
(これが異世界で流れるわけか……)
 イーサンはふいに流すのはやっぱりやめた方がいいんじゃないかと思ったが、スノウの方は自画自賛しながらはしゃいでいた。

「えっと、あとは『作品タイトル』か……。そういえば、受付けの女性が『ターゲットとなる視聴者を意識したり、世界観が伝わるようにしたりすることがポイントです』と言ってたな……」

 イーサンの独り言を聞いていたスノウが「はいはいッ!」と手を挙げている。何か良い作品タイトルを考え付いたらしい。そして「ン、ン」と咳払いをして言った。

『いまだにスキルを何も持たない名もない駆出し冒険者とその従魔ですが、従魔あらためスノウ様のスキルが優秀すぎるので本当に助かっています』

 ドヤ顔で「どうッ!」と言ってきたが却下した。
 だが、かと言って思いつかなかったので、スノウの作成タイトルから言葉を選んで

『まだ名もないそのスキル』

 とりあえず、この名前にしておいた。



 

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