家に戻って3週間ほど経ち、再び診療所に経過を見てもらう日になった。
治療士にはイーサンが初めて来た日との様子がまるで違うことに気が付いた。
「あれ?全然、大丈夫ですよね?」
驚きを隠せない様子で聞く治療士。なんせ、投薬していたのはこの治療院でも末期の患者に渡すものであった。多少、症状が治まるといっても、完全に治まるわけではない。だが、この道で何十年も患者を観てきた治療士には完全に治まっているように見えた。
とりあえずと、再び1カ月分の薬を処方されこの日は帰ることになった。
イーサンは商会の仕事にも復帰し、投薬治療を続けてはいたがその反動としてひどい眠気に襲われることがしばしばあった。眠気の原因は薬によるものだとわかっていたので、徐々に減らしていくことにした。
薬を完全に飲まなくなって一週間が経ったころには、ゴシップをまとめる物書きも再開していた。
だが、広場の掲示板を管理するグングニル商会は以前よりも物書きへの規制を厳しくしていた。
(もういいんじゃないか)
これまでにも幾度となく、浮かんでは見えないようにしていた言葉がイーサンの頭を埋めていく。頭の中がその言葉で黒く塗り潰されそうになった時、声が聞こえた。幻聴ではなく、生身の声が。
「それって、あんたが本当に心の底からやりたいもんなの?」
声の聞こえた方を見ると、手のひらサイズの角の生えた魔人がいる。
「うわぁっ!」
と驚いたが魔人には敵意はないようだ。むしろ、腰に手をやり今にもため息をつきそうな様子で心配している。
「それでどうなの?それって、あんたが本当に心の底からやりたいもんなの?」
同じ質問を繰り返す魔人に「そんなわけないだろう」と返す。
「じゃあ、あんたは一体何がやりたいの?」
そう聞かれてもイーサンは即答できなかった。なんせ、これまでの人生はやりたいと思ったものをやってきたつもりだった。多少は上手くいくものもあったが、結果的には辞めている。
過去のことを一人思い出していると、
「はぁ~~~。これだから”#%&Sは」
と魔人は大きなため息をつきながら、聞き覚えのない言葉が混じった皮肉をいった。
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